むかーしむかし、ある所に貧しい2人の女の子が住んでいました。 

女の子の名前は、「透華」と「衣」と言いました。 

透華という子はたいそう目立ちたがり屋でした。衣という子は親の形見である兎の耳のようなものをいつも頭につけていました。 

衣は透華に比べて、とても小さな子でしたが、ふたりは同い年でした…… 



さて、今日は節分です。村ではあちこちから豆をまく声が聞こえてきます。 

しかし、透華と衣はとても貧しいので、豆をまくこともできませんでした…… 


オニハーソトー!フクハーウチー! 

オニハソトー!タコスハウチダジェー! 



衣「とーか、衣も豆を撒きたいぞ」 

透華「衣、申し訳ないですが、我が家には豆が……」 

衣「うぅ……とーか、どうして豆も撒けないくらいに家は貧しいんだ…………グスッ」 

透華「衣、泣かないでください!衣には笑顔が一番似合ってますわ!」 

透華「ですが、節分だと言うのに豆を撒かないなんて、この世界一目立つべき私にあってはなりませんわ!!」 

衣「でも、豆がないんでしょ……?」 

透華「いいえ!豆が無くても節分は出来ますわ!この際撒く真似でも良いのです!」スクッ! 

透華「衣!豆を撒きますわよっ!!」 




透華「さて、外に出てきましたわ。衣、準備はよろしいですわね?」 

衣「とーかの言われた通りにしたけど……枡を持ってるだけで豆が無いぞ?」 

透華「構いませんわ。いいですか衣、豆を撒くフリをして大声で叫ぶのです。あちこちで豆が飛びかっているのですから、きっと鬼は私たちも豆を撒いていると勘違いするはずです」 

衣「……そうか!とーかは頭がいいな!!」パァァ 

透華「思いきりが大事ですわよ!ここで一気に目立ってやりますわ!」 

そして、ふたりは豆撒き(の真似)を始めました…… 




透華「おにはーうちー!!ふくはーそとー!!」 

衣「おにはーうちー!!ふくはーそとー!!」 


ふたりは気合が入りすぎたのか、言うことがあべこべになってしまいました。 

衣はそんなことはまったく気づかず、楽しそうに豆を撒いています……豆はありませんが。 

透華はすぐに間違えていることに気づきましたが、 


透華(……ハッ!これでは真逆ですわ!いえ……これは私たちがもっと目立てるチャンスですわ!!) 


透華「おにはーうちー!!ふくはーそとー!!」 

衣「おにはーうちー!!ふくはーそとー!!」 

そのまま続けることにしました。 




その頃、村にやってきた鬼たちは、人々が投げつける豆から逃げまどっていました。 

鬼たちの名前は、サキとテルといいました。 

ふたりは麻雀が恐ろしく強く、頭にツノがあったので、鬼だとか、魔王だとか、人々から恐れられていたのです。 


絹恵「おにはーそとー!!ふくはーうちー!!」 

サキ「ま、待ってよ!私たちはただ」 

テル「サキ、危ないから逃げないと」 

サキ「だ、だって!」 

テル「イヤでも逃げる。なんなら私が引っ張る」グイグイ 

サキ「……っ!」タタタッ 

洋榎「おにはーそとー!!…………恭子ー!仇はとったからカタカタするのやめーや!!」 



サキ「うぅ……どうして豆を投げつけられなきゃいけないの……」 

テル「仕方がない。今日は節分……豆じゃなくてお菓子投げてくれればいいのに……」 


オニハーウチー!!フクハーソトー!! 


サキ「……お姉ちゃん、何か聞こえない?」 

テル「違う、あれは私たちを追い出す声……」 


オニハーウチー!!フクハーソトー!! 


サキ「……違うよほら!あの人たちは豆なんか撒いてないよ!」 

テル「……あそこに逃げよう、サキ」タタタッ 

サキ「うん!」トテテ 




透華「おにはーうちー!!ふくはーそとー!!……あれは!?」 

衣「と、とーか!?何かやって来るぞ!?」 

透華「そんな!私たちはちゃんと」 

サキ「助けてくださーい!!」トテテテ 

衣「つ、ツノだ……とーか、お、鬼が」ガタガタ 

透華「お、落ち着いてくださいまし!ど、どうして鬼が」ガタガタ 

テル「怖がらなくていいのに……あちこちで豆を投げつけられて、行くところがないだけ」 

サキ「ここには豆がないみたいですから……少し家に置かせてくれませんか?」 

透華「お、お引き取り頂いても」ガタガタ 

テル「……おかしい、ならどうして『鬼は内』って言ってたの?」 

衣「そんなことは言ってなど……」 



ーーー 

衣『おにはーうちー!!ふくはーそとー!!』 

ーーー 


衣「」ガタガタガタガタ 





透華「で、ですが、あいにく私たちの家にはお米も無くて……」アセアセ 

テル「それは大丈夫。お米よりお菓子が欲しい」 

透華「その、お菓子も無くて……」 

テル「むぅ、お菓子が無いならどうしろと言うの」プクー 

サキ「お姉ちゃん迷惑かけちゃダメだよ!でも……」ゴソゴソ 


サキ「はい、じゃあこの本を売って、お米と交換してきてもらってください」っ本 

透華「こ、この本をですの?」 

サキ「はい、きっと売れますよ」 

テル「お米よりお菓子と交換してきて欲しい」 


というわけで、サキから本をもらった透華は、さっそくお菓子と交換しに行きました…… 



_村の民家 

透華「ごめんくださいまし」 

美穂子「あら、あなたは向こうの家の」 

透華「この本をお菓子と交換して欲しいのですわ」っ本 

美穂子「古い本ね……華菜、何かお菓子を一袋持ってきてくれるかしら?」パラパラ 

華菜「了解だし!」トテテ 

透華「交換して頂けるのですか?」 

美穂子「えぇ、状態も良いし、この本面白そうだから……」パラパラ 


こうして、透華は本とお菓子を交換してもらえることになりました。 




ところが………… 



美穂子「……こ、これは!?」 

透華「どうかされましたの?」 

美穂子「これは上埜さんの落書き!!ちょっと、この本どこで手に入れたのかしら!?」 

透華「い、いえ、これは違う人から譲り受けたものですが……」 

美穂子「とにかくありがとう、一生大切にするわ!華菜、お菓子をもっと持ってきてちょうだい!!ダンボール数箱でもいいわ!」 

華菜「そんなに一人で運べないしー!!」 


こうして、透華は美穂子からたくさんのお菓子をもらいました…… 



透華「何はともあれ、上手くいってよかったですわ」 




その夜、透華たちの家にはダンボール数箱分のお菓子がありました。 


テル「お菓子美味しい」モグモグ 

サキ「こんなにたくさんのお菓子、どうしたんですか?」 

透華「先ほどの本を人に差し上げただけですわ」 

サキ「そんなに価値のある本だったかなぁ……?」 




さて、翌朝になると、なんとお菓子がすっかり無くなっているではありませんか。 


衣「もうお菓子は無いから、帰ってほしいのだが」 

テル「大丈夫、また何か交換してくればいい」 

サキ「お姉ちゃん食べてばっかりだから何か出してよ〜」 

テル「じゃあ…………」ゴソゴソ 


テル「これを交換してくればいい」っマフラー 

衣「何だこれは?マフラーか?」 

テル「節分とはいえまだ寒い季節。たぶん何とかなる」 

衣「じゃあ、次は衣が行ってくるぞ」トテトテ 


というわけで、テルからマフラーをもらった衣は、お菓子と交換してもらいに行きました…… 



透華「ところであのマフラー、どこで手に入れたのですか?」 

テル「ムシャクシャした時にフルパワーでコークスクリューしたら何処からか飛んできた」 

サキ「お姉ちゃん…………」 



_別の村の民家 


衣「ごめんくださーい」 

菫「ん?君は確か向こうの方の……」 

衣「このマフラーをお菓子と交換して欲しいのだが」 

菫「マフラーか。まぁまだまだ寒いからな、ありがたく頂こう。お菓子だな、ちょっと待っていてくれ……」 


こうして衣はマフラーをお菓子と交換してもらいました。 





ところが………… 


菫「…………!?」 

衣「どうかしたのか?」 

菫「このマフラー、山の向こうの宥のマフラーじゃないか!!衣、このマフラーはどこで!?」 

衣「何者だ、ユウとは?そのマフラーは別の人からもらったのだ」 

菫「かわいそうに、マフラーが無くて寒い思いをしているに違いない、すぐに出掛けないと!」 

衣「あっ、お、お菓子は!?」 

菫「私の家の奥にある!マフラーを届けてくれたお礼だ、好きなだけ持っていってくれ!ゆうーー!!今行くぞーー!!」ダッ 


こうして、衣はマフラーを大量のお菓子と交換してもらえました…… 



その夜のことです。 

テル「お菓子美味しい」モグモグ 

衣「こんなにたくさんのお菓子は初めてだぞ!」モグモグ 

サキ「あはは……やっぱり人のものだったんですね」 

透華「ですが、このお菓子……いくらなんでも多すぎますわ」 

テル「私が全部食べるから大丈夫」モグモグ 

サキ「お姉ちゃん食べ過ぎはダメだよ!!」 

テル「大丈夫、お菓子は別腹」モグモグ 

サキ「だーめ!!」ムキー! 

テル「サキはうるさい……何なら叩き潰してあげようか?」 

サキ「……いいよ、お姉ちゃん」 

透華「な、何が……」 

衣「衣、何か悪いことをしたのかな……」 



テル「……サキ」ゴゴゴゴゴゴ 

サキ「……お姉ちゃん」ゴゴゴゴゴゴ 



テルサキ「「麻雀で勝負をつけよう」」ゴゴゴゴゴゴ 


透華「ちょ、ちょっと待ってくださいまし!我が家には麻雀卓はありませんわ!」 

テル「なら手に入れればいい、力づくでも」ゴゴゴゴゴゴ 

衣「そ、そうだ!そのお菓子と交換してもらえば!」 

サキ「じゃあ、お願いできるかな」ゴゴゴゴゴゴ 

透華 衣「「了解しましたわ(したぞ)!!」」ガタガタ 


というわけで翌朝、透華と衣は麻雀卓を手に入れに行きました…… 






早くしないと大事な家が木っ端微塵になるかも分かりませんから。 




_村の雀荘『屋上』 

透華「ごめんくださいまし!」 

衣「お願いにきたぞー!!」 

まこ「なんじゃ、今日はまだ開いとらんぞ……て、おんしら、ここに来たのは初めてじゃないかのう?どうしたんじゃ?」 

透華「何も言わずに、麻雀卓を一台くださいまし!!」 

衣「ちゃんとお礼の品はあるぞ!!」 

まこ「麻雀卓?いきなりどうした……って!なんじゃあの山のようなお菓子は!?」 

透華「あのお菓子を差し上げますわ!どうか!どうか麻雀卓を!!」 

まこ「わ、分かった。そこの一台なら構わんけぇ、持っていきんしゃい……って二人じゃ無理じゃな、人に頼んで運んでもらおうかの」 


こうして、二人はお菓子と引き換えに麻雀卓をもらいました…… 



そして、透華と衣、サキとテルが麻雀卓を囲みます。 

サキ「…………」ゴゴゴゴゴゴ 

透華「」 

テル「…………」ゴゴゴゴゴゴ 

衣「」 


サキテル「「じゃあ、始めようか」」 



透華「あの……少し、よろしいですか?」 

テル「なに?」ゴゴゴゴゴゴ 

衣「あ……衣もいいか?」 

サキ「どうしたの?」ゴゴゴゴゴゴ 







透華 衣「「麻雀のやり方、教えて頂けませんか(くれないか)?」」 




サキテル「「………………え?」」 



透華と衣は、村に雀荘があることは知っていたものの、麻雀がどのような遊びなのか知りませんでした。 

何せ貧乏でしたからそういうことをする余裕があまり無かったのです。 



というわけで、早速テルとサキによる麻雀指導が始まりました…… 

テル「ここに14個牌があって、3つずつの組合せと2つの組合せを……」テトリアシトリ 

透華「一つ引いて、手牌から一つ捨てる……」フムフム 

サキ「そうそう、これはポンって言って……」テトリアシトリ 

衣「3つ同じ牌になるならポンだな……」フムフム 



二人は飲み込みは早い方でしたが、決してルールが単純ではない麻雀です、気がつくと外は真っ暗になっていました。 

その頃には、サキもテルも喧嘩していたことなど、すっかり忘れていて…… 


透華「ポンですわ!」 

テル「透華、ここで鳴いても意味がない。もっと大きな役を作れる」 

衣「えいっ!……やった!ツモ!」 

サキ「すごいね衣ちゃん!跳満だよ!!」 

衣「へへーん!どうだとーか!!」 

透華「お見事ですわ衣!私も負けませんわよ!!」 

衣「衣は負けないぞ!」ゴッ 

透華「!?」 

サキ(これって……!) 

テル(ふむ…………) 






4人で麻雀卓を囲む中で、気づいていたのは透華だけだったかもしれません。 


衣が、今まで見たことがないくらい楽しそうな顔をしていることに。 


透華(私たちには、親らしい親がいませんでした。貧しくて、ずっと二人だけで、ただ生きることに精一杯だった) 

透華(ですが、どうでしょう……衣が、生きること以外で、あんなに一生懸命になって、おまけにあんなに楽しそうで、嬉しそうで) 



透華(鬼というものは、人を苦しめるだけではないのですね……) 



その日は夜遅くまで、家に明かりがついていました…… 




そして翌朝、ついに節分が終わりました。 


透華「あなた方には感謝してもしきれませんわ。お菓子が無くなるまで、ぜひゆっくりしていってくださいまし」 

サキ「いいえ、申し出は嬉しいですが、そろそろ帰らないと……」 

テル「節分は終わった。私たちも帰る場所がある」 

透華「そうですか……残念ですわ。衣に初めての友達ができたかと思いましたのに……」チラッ 



衣「くぅ……くぅ……」zzz 



テル「それは大丈夫。私たちはあちこちで麻雀をやってる。もしかしたらまたいつか、会うことができるかもしれない」 

透華「そうですか……またお会いできる日を、楽しみにしていますわ」 

サキ「会えますよ、きっと!……じゃあ、帰ろうか」スクッ 




透華「そういえば……どうして、私たちを助けてくださいましたの?」 

テル「オニだって人を助けることもある」スクッ 





こうして、サキとテルは、何処かへと帰っていきました。 







衣「むにゃむにゃ……ツモー、役満だぞー……えへへ……」zzz 






その後、衣は雀士になり、メキメキと実力をつけ、人々に『牌に愛された子』と呼ばれる、素晴らしい雀士になりました。 

衣は後にサキとテルとの再会を果たし、透華を加えて行われた対局は今でも、伝説の対局として人々の語り草になっています。 



透華も麻雀を続けましたが、その一方で一生懸命に働き、大富豪になりました。 

これが現在の龍門渕家の始まりだそうです。 






何れにしても、透華と衣は、いつまでも幸せに暮らしました……とさ。 




めでたし、めでたし。 



カンッ! 


ころたんイェイ〜 


というわけで以上、節分ネタでした。 

スレタイの話は実際にある昔ばなしです。知ってる人もいるかな?